テーマの解説
漢方薬は、その原料が植物や鉱物など天然物に由来する生薬から構成される医薬品です。漢方薬の理論は古代中国の影響を受けていますので、その原料生薬には中国からの輸入品が多く含まれています。さらに中国産は安価で十分な供給量があったことから、日本で生産可能な生薬ですら中国産に依存するようになりました。現在、日本の医療に使用される生薬の約9割は海外に依存しています。
したがって生薬の輸入が途絶えると日本の漢方薬の7割以上が消滅してしまうと言われており、この問題を解決しうる選択肢の一つに生薬の国産化が挙げられます。しかし国産化を達成するためにも克服すべき様々な課題があり、必ずしも成功していません。本講演会では国産化の取り組みについて問題点を考えてみたいと思います。
(1) 漢方生薬「マオウ」国産化の試み
講師 御影雅幸(東京農業大学農学部バイオセラビー学科教授、金沢大学名誉教授)
概要 「麻黄(マオウ)」は、葛根湯、麻黄湯、小青竜湯などの重要な漢方処方に配合される漢方生薬です。「マオウ」は日本での使用量の 100% を海外からの輸入品に依存しています。漢方処方は複数の生薬の組み合わせで構成されていますので1品目でも欠けると処方することができません。このような漢方薬消滅の危機を打開するためには国産化を進める必要があります。
「マオウ」は医薬品基準書である日本薬局方では、アルカロイド含量が 0.7% 以上であることが要求されています。しかし日本ではこの要求を満たす「マオウ」を栽培、生産する技術がありません。演者は長年の研究によりこの問題を解決することに成功しつつあり、石川県にもその生産地を構築すべく取り組んでいます。本講演では現在までの試みの経緯を紹介します。
(2) 漢方処方「四物湯(しもつとう)」の原料生薬を石川県で
講師 佐々木陽平(金沢大学医薬保健研究域薬学系准教授)
概要 「四物湯」は、「当帰(とうき)」、「芍薬(しゃくやく)」、「地黄(じおう)」、「川芎(せんきゅう)」の4種類の生薬から構成される漢方薬です。四物湯は他の漢方薬の構成要素にもなっており、重要な処方の1つです。これらのもとの植物はいずれも日本で栽培可能であるにも関わらず、多くを輸入品に依存しています。特に「地黄」は依存度が高く 99.4% です。
その理由は経済的な問題です。すなわち日本産よりも安価な海外品が選択されているのです。この問題を解決するためには、生薬に付加価値をつけることや非薬用部として未利用であった部分を有効活用するなど、生産者に向けた採算面を考慮する必要があります。本講演では石川県で実施している取り組みを紹介します。